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函館地方裁判所 昭和53年(ワ)10号 判決

原告 佐々木常政

被告 国

代理人 斉藤任幸 笠井秀弥 ほか九名

主文

一  原告の請求はいずれもこれを棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事  実〈省略〉

第三証拠〈省略〉

理由

一  請求原因第1項の事実および原告が昭和一五年一〇月六日本件土地の一部を含む別紙物件目録(二)記載の公用水面および海浜地につき、当時右海浜地の管理者であつた北海道庁長官に対し、右公用水面および海浜地を海産干場、漁獲物処理場として使用するため、埋立および盛土工事を実施することを内容とする免許出願をし、北海道庁長官が原告に対し、右出願につき免許処分をしたことは当事者間に争いがない。

右当事者間に争いのない事実に加えて、<証拠略>を総合すれば次の事実が認められる。

本件土地は、昭和一五年当時被告所有の海浜地(一部公用水面)であり、公共用物として北海道庁長官が管理していた。当時原告は本件土地およびその付近を海産干場、網干場などとして使用して沿岸漁業に従事していたが、風水害により本件土地上に設置した海産干場などに使用する資材などが流出して損害を蒙るために昭和一五年一〇月六日、公有水面埋立法(大正一〇年法律第五七号)にもとづき、北海道庁長官に対し本件土地の一部を含む別紙物件目録(二)記載の公用水面および海浜地につき海産干場、漁獲物処理場として使用する目的のもとに埋立および盛土工事をなすことを内容とする免許出願をした。右工事計画の概要は、コンクリート造りの基礎をもとにした最大高約三メートルの石垣護岸を別紙物件目録(二)記載の公用水面および海浜地の周囲を南側一辺および東側約四分の一を除いて総延長約六四メートルにわたつてとり囲むように設置し、内側を埋立および盛土するものであつた。北海道庁長官は原告に対し、昭和一六年一月二一日右出願につき、右工事竣工のときは遅滞なく竣工認可の申請をなすことなどを条件として免許処分をした。

原告は右免許処分を受けたものの、当時の資材が極度に不足した状況のもとでは右出願にかかる石垣護岸を設置する工事に着手することも埋立に着手することもできず、結局、本件土地の波打ち際の一部に家内労働力を用いて、付近の石を拾い集めて積み上げ、木柵を張ることにとどまり現在に至つている。

以上の事実が認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。証人佐々木政康は、右認定の工事につき、竣工認可があつた旨証言するが、右認定の事実に照らし、にわかに措信することができず、他に右竣工認可があつた事実を認めるに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、北海道庁長官は原告に対し、別紙物件目録(二)記載の公用水面および海浜地につき公有水面埋立法(大正一〇年法律第五七号)にもとづき免許処分をなしたのであるが、右免許は埋立を条件として埋立地の所有権を取得させることを終局の目的とする行政処分であり、右免許自体により直ちに該当する公用水面および海浜地の公用を廃止する効力を有するものではないと解すべきであるから、右免許処分により、別紙物件目録(二)の公用水面および海浜地はもとより本件土地について被告が公用廃止処分をしたと解することはできない。また、被告が本件土地につき現在まで明示の公用廃止処分をしたことを認めるに足る証拠は全くない。

さらに、公共用物についての公用廃止処分は、行政主体による明示の意思表示によりなされることを必要とすると解されているが(大審院昭和四年一二月一一日判決、大審院民事判例集第八巻九一四頁以下)、仮りに、黙示の公用廃止処分というものが認められるとしても、右認定のごとく右免許処分があつたことおよび原告が本件土地の一部につき石積みし、木柵を設置したことのみをもつて被告において本件土地につき黙示の公用廃止処分をしたと推認することはできず、本件土地につき現在まで黙示の公用廃止処分があつたことを認めるに足りる証拠はない。

二  以上によれば、被告が本件土地につき、現在まで明示的にも黙示的にも公用廃止処分をした事実は認めることができず、また、前記認定のごとく、本件土地はその一部について、原告により石積みされ、木柵を設置されたものの、これにより、その形状において本質的に変化し、公共の用に供されるべき性質を滅失したとも認められないので、本件土地は現在においても公共用物たる性質を有するものと認められる。

そうであるならば、公共用物たる本件土地は所有権および地役権の取得時効の対象にならないと解するのが相当であるから、原告が本件土地をその主張のとおり占有したか否かを判断するまでもなく、原告の主張は理由がないといわなければならない。

三  以上の次第であるから、原告の本訴請求は、いずれも失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡村稔)

別紙物件目録及び図面 〈省略〉

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